「宅建士を取ると年収はいくらになる?」「資格手当で給与は上がる?」
資格取得を考えるなら、時間と費用に見合うのか気になりますよね。
先に結論をお伝えすると、宅建士だけを抽出した公的な平均年収は確認できません。公的統計で確認できるのは、宅建士を含み得る「住宅・不動産営業」という職業や、「不動産業、物品賃貸業」という業種の平均です。
そのため、「宅建士の平均年収は○万円」とひとつの数字だけで判断するのはおすすめできません。営業、管理、事務などの職種、地域、経験、役職、歩合給、資格手当によって、実際の給与は大きく変わります。
この記事では、公的統計が誰の給与を集計したものかを整理したうえで、求人票から自分に近い年収を確かめる方法を解説します。
この記事でわかること
- 宅建士の年収に近い3つの公的データと、その違い
- 資格手当や歩合給を確認するときの注意点
- 年齢、性別、地域、企業規模だけで年収を決めつけられない理由
- 求人票から見込み年収を計算する方法
- 年収アップを考えるときに資格以外で確認したい条件
宅建士だけの公的な平均年収は確認できない
本稿で確認した厚生労働省と国税庁の統計には、「宅地建物取引士の資格を持つ人だけ」を抜き出した平均年収は見当たりません。
宅建士は資格の名称です。実際の仕事は、不動産営業、契約事務、賃貸管理、用地仕入れなどに分かれます。反対に、不動産営業として働く人が全員、宅建士であるとは限りません。
年収を調べるときは、次の3つを分けて読むことが大切です。
| 確認できる数字 | 公表値 | 対象 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 住宅・不動産営業の年収 | 660.7万円 | 「不動産営業員」などに対応する職業分類 | 宅建士以外も含む。「きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額」で算出した職業分類の平均。 |
| 不動産業、物品賃貸業の平均給与 | 495.5万円 | 不動産取引、賃貸・管理、物品賃貸などの業種で1年を通じて勤務した給与所得者(乙欄適用者を含む) | 営業以外の職種や宅建士ではない人、物品賃貸業も含む業種平均。 |
| 住宅・不動産営業の求人賃金 | 月額30.4万円 | ハローワークの求人 | 令和7年度の募集条件の平均。賞与・歩合などを含む年収とは限らない。 |
3つはいずれも各資料に掲載された公表値ですが、測っている対象が違います。660.7万円と495.5万円を「宅建士の上限と下限」とみなしたり、単純に平均したりすることもできません。
POINT
公的統計は、業界や職種の全体像を知るための参考値です。自分が入社時に受け取る給与は、希望地域の求人票と雇用条件で確認しましょう。
「住宅・不動産営業660.7万円」の正しい見方
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」では、住宅・不動産営業の全国年収を660.7万円としています。出典は令和7年賃金構造基本統計調査で、対応する職業分類は「不動産営業員」などです。
この職業には、住宅・不動産会社の営業、建売住宅営業、マンション販売、用地仕入れなどが含まれます。宅建士資格の有無で分けた数字ではありません。
また、同じ職業分類に対応する平均年齢は42.4歳です。さまざまな年齢・経験年数の就業者を含む平均なので、未経験で入社する人の初年度年収として、そのまま使うことはできません。
job tagは、住宅・不動産営業の給与について、企業の規定による基本給に加えて、売上に応じた歩合給が付く場合があると説明しています。営業成果による幅があることも、平均値を読むときの注意点です。
求人賃金月30.4万円は「現在の募集条件」に近い数字
同じjob tagには、ハローワークの住宅・不動産営業について、令和7年度の求人賃金が全国平均で月額30.4万円と掲載されています。
こちらは在職者の平均年収ではなく、求人に示された月額賃金です。賞与、歩合給、固定残業代、資格手当がどう扱われているかは求人ごとに異なるため、単純に12倍して「年収364.8万円」と確定することはできません。
それでも、これから転職する方にとっては、経験者を含む在職者平均より、現在の募集条件を考える手がかりになります。
「不動産業、物品賃貸業495.5万円」の正しい見方
国税庁の令和6年分民間給与実態統計調査では、「不動産業、物品賃貸業」で1年を通じて勤務した給与所得者(乙欄適用者を含む)の平均給与は495.5万円です。
この業種区分には、不動産取引業だけでなく、不動産賃貸・管理業と物品賃貸業も含まれます。さらに、営業、事務、管理などさまざまな職種と、宅建士資格を持たない人も含まれます。
つまり、495.5万円は「宅建士の平均年収」ではなく、関連する広い業種の平均給与です。業界全体を知る参考にはなりますが、資格取得後の昇給額を示す数字ではありません。
職種によって給与の決まり方が変わる
宅建士資格を活かせる仕事でも、給与の仕組みは同じではありません。年収を比べる前に、どの仕事を目指すのかを整理しましょう。
売買・賃貸の営業
不動産営業では、固定給に加えて、成約件数や売上に応じた歩合給が付く場合があります。成果が給与に反映される一方で、毎月の収入が変動することもあります。
求人を見るときは、高い年収例だけでなく、固定給、歩合の計算方法、支給時期、目標未達時の扱い、返品・解約時の精算まで確認しましょう。
契約事務・不動産事務
契約書類の準備、物件情報の管理、重要事項説明などを担当する求人があります。給与は固定給を中心に設計される場合もありますが、仕事内容や資格手当は企業ごとに異なります。
「宅建事務」という名称でも、営業補助、接客、電話対応を含むことがあります。職種名だけで判断せず、担当業務を確認しましょう。
賃貸管理・建物管理
入居者対応、契約更新、修繕の手配、オーナーへの報告などを行います。夜間・休日対応の有無、担当物件数、当番制、別の管理系資格が必要かによって、条件が変わります。
用地仕入れ・開発・資産運用関連
用地仕入れや開発、アセットマネジメントなどでは、宅建士資格に加えて、取引経験、財務知識、事業計画、法人折衝などの専門性が求められます。
高い給与の求人があっても、その差を宅建士資格だけの効果とみなすことはできません。必要経験と担当責任を同時に確認しましょう。
資格手当はいくら?全国一律の相場はない
宅建士の資格手当について、すべての企業を対象にした公的な支給割合や平均額は確認できません。資格を取れば、法律により一律の手当が支給されるわけでもありません。
支給の有無、金額、条件は会社の給与規程で決まります。求人票に手当が書かれていても、次の条件を確認してください。
- 試験合格だけで対象になるか
- 都道府県への資格登録が必要か
- 宅地建物取引士証の交付が必要か
- 専任宅建士として登録することが条件か
- 月額手当か、合格時の一時金か
- 基本給・賞与・残業代の計算に手当が含まれるか
- 試用期間中も支給されるか
長期の収入差を計算するときは、「手当が将来も同額で支給される」と決めつけないことも大切です。異動、職務変更、給与制度の改定で条件が変わる可能性があります。
年齢・性別・地域・企業規模でどう変わる?
これらの条件で給与に差が生じることはあります。ただし、宅建士だけを対象に、ほかの条件をそろえて比較した公的統計は確認できません。
年齢より、経験と役割を確認する
年齢が上がるほど平均給与が高く見える統計でも、勤続年数、営業経験、役職などが影響しています。「40代だから○万円」と考えるのではなく、未経験者向けか、経験者・管理職向けかを分けて求人を比べましょう。
男女別平均を、自分の年収予測に使わない
業種全体の男女別平均には、職種、勤続年数、雇用形態、管理職比率、労働時間など複数の違いが含まれます。性別だけを理由に、自分の見込み年収を決めることはできません。
同じ職種、勤務地、経験条件の求人で、賃金と評価制度を比較するほうが実用的です。
地域は給与と生活費をセットで見る
地域によって求人賃金や物件価格、求人件数は異なります。ただし、都市部の求人だから必ず手取りが多くなるとは限りません。
家賃、通勤費、転居費、勤務時間も含めて比較しましょう。job tagでは都道府県別の統計を選べるため、全国平均ではなく希望勤務地の情報を確認できます。
企業規模より、給与の内訳を見る
大企業と中小企業では給与や福利厚生に違いがある場合がありますが、企業規模だけで優劣は決まりません。固定給、賞与、歩合、手当、退職金、転勤の有無を同じ表にして比べましょう。
求人票から見込み年収を計算する方法
自分に近い年収を知るには、応募できる求人を3〜5件集め、同じ条件で計算する方法が現実的です。
まずは固定部分を計算
固定部分の見込み年収 =(基本給 + 毎月固定で支払われる手当)× 12か月 + 支給条件が確認できる賞与
毎月固定で支払われる資格手当や固定残業代は、この固定部分に含めます。同じ手当を後から足して二重に数えないよう注意してください。固定残業代は、対象時間と超過分の扱いも確認しましょう。
変動部分は分けて考える
見込み年収 = 固定部分 + 固定部分に含めていない歩合給・報奨金
歩合給は、会社が示す最高例ではなく、自分と近い経験年数・担当職種の支給条件で確認します。実績データが提示されている場合も、対象人数、中央値か平均値か、在籍期間、未達者を含むかを質問しましょう。
手取りと働く時間も確認
額面年収が上がっても、長時間労働や休日対応が増えれば、時間当たりの収入や生活への影響は変わります。税金・社会保険料を差し引いた手取り、年間休日、平均残業時間、通勤時間も一緒に比べましょう。
POINT
年収欄の上限額より、「固定給として確実な部分」と「条件を満たしたときだけ支給される部分」を分けることが大切です。
宅建士で年収1,000万円を目指せる?
年収1,000万円を目標にする場合も、宅建士資格だけで到達できるとは判断できません。求人や広告に高い上限額・実績例が書かれているときは、達成条件と対象人数を確認する必要があります。
高い年収には、次のような条件が組み合わさっている場合があります。
- 高い売上に連動する歩合給
- 売買仲介、用地仕入れ、開発などの実務経験
- 管理職としての責任と評価
- 金融、法務、建築、投資分析などの専門性
- 独立開業による事業利益
歩合給は収入を押し上げる可能性がある一方、成約数や市況によって下がることもあります。独立後の金額は「給与」ではなく、売上から広告費、人件費、事務所費、システム費、保証協会関係費用などを引いた事業利益で考える必要があります。
高い年収例を見るときは、「その人が宅建士だから」ではなく、「どの仕事で、どの程度の成果や責任を担っているか」を確認しましょう。
宅建士資格が仕事に結びつく理由
宅建士には、不動産取引に関わる法定業務があります。宅地建物取引業者の事務所では、宅建業に従事する人5人につき1人以上の割合で、専任宅建士を置く必要があります。
また、重要事項の説明は宅建士が行い、重要事項説明書(35条書面)と契約成立後の書面(37条書面)には宅建士の記名が必要です。
宅建士の押印義務は2022年5月18日に廃止されました。書面を電磁的方法で提供する場合は、あらかじめ提供方法とファイル形式を示して相手方の承諾を得るなど、法令で定められた手続きが必要です。
こうした制度により、宅建業者には宅建士を確保する必要があります。ただし、設置義務があることと、個人の雇用や高収入が保証されることは別です。採用では実務経験、担当できる業務、勤務条件も評価されます。
資格取得の費用対効果を判断する5つの質問
宅建士を目指すか迷っている方は、平均年収だけでなく、次の質問に答えてみましょう。
- 希望地域に、宅建士必須・歓迎の求人はあるか
- 目指す職種は営業、管理、事務のどれか
- 現在の経験を応募先でどう活かせるか
- 資格手当の支給条件を確認できるか
- 学習費用と時間を、想定する収入差で回収できるか
資格取得前に求人を見ると、「合格だけで応募できる求人」と「資格に加えて経験が必要な求人」を分けられます。希望する仕事に資格が必要かを確かめてから学習方法を選ぶと、投資判断がしやすくなります。
転職前に確認したい求人票チェックリスト
- 月給のうち、基本給はいくらか
- 固定残業代の金額と対象時間
- 超過分の残業代が別途支給されるか
- 賞与は「実績」か「保証」か
- 資格手当の金額と支給条件
- 歩合給の計算方法、支給時期、取消条件
- 試用期間中の給与
- 年間休日、休日出勤、当番の有無
- 宅建士証の取得・更新費用を誰が負担するか
- 専任宅建士として登録するか
求人票だけで分からない項目は、応募先に確認しましょう。回答を書き出して比較すると、「平均年収」より自分に近い判断材料になります。
まとめ|宅建士の年収は「職業・業種・求人」を分けて考える
宅建士だけを対象にした公的な平均年収は確認できません。参考になる公的データには、住宅・不動産営業の年収660.7万円、不動産業・物品賃貸業の平均給与495.5万円、住宅・不動産営業の求人賃金月額30.4万円があります。
ただし、この3つは対象も目的も異なります。いずれかを、そのまま「宅建士になった自分の年収」と考えることはできません。
年収を現実的に見積もるには、次の順で確認しましょう。
- 希望する地域・職種の求人を3〜5件集める
- 基本給、固定残業代、賞与、資格手当、歩合を分ける
- 自分の経験で応募できる条件に絞る
- 休日、残業、通勤費なども含めて比較する
宅建士資格は、不動産取引の法定業務や専任宅建士の設置義務と結びつく資格です。一方で、資格だけが給与を決めるわけではありません。平均額に期待する前に、資格をどの仕事で使うかを具体的にすることが、納得できる転職や学習計画への第一歩です。
※統計・制度情報は2026年9月24日に確認しました。
参考資料
- 厚生労働省 職業情報提供サイトjob tag「住宅・不動産営業」(令和7年賃金構造基本統計調査、令和7年度ハローワーク求人統計)
- 厚生労働省job tag「職業紹介ページに掲載されている統計データに関する留意事項」(年収の計算方法、求人賃金の対象期間)
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」第8表(業種別の給与所得者数・給与総額・平均給与)
- 国税庁「民間給与実態統計調査の概要・業種の分類」
- 国土交通省 北海道開発局「宅地建物取引業」(専任宅建士の設置)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の概要」(35条の重要事項説明、35条・37条書面への記名)
- 国土交通省「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。」(宅建士の押印義務廃止・書面の電子化)

